ある晴れた日の昼下がり
こんな日は
古い街並みが残る通り沿いの
馴染みの咖喱店に赴くのである。
いつもとは異なる情景にふと目を奪われた。
新しい試みを始めたのかな。
当たるといいのだが。
それにしても寒い。
気温はそこまで低くないが
吹き付ける風が肌を刺すのである。
たまらず扉を開け店内へ。
1人なのでもちろん一人席。
無駄に何席も独占するつもりはないのだ。
この空間は落ち着く。
忙しい厨房を目の前に
左右を簡易的な板で区切られることで作られる
1人分の幅の空間。
いまから始まる食という楽しみは
私だけのものなのだ。
そんな気にさせてくれる。
注文するのはもちろん
チキンカツカレーにチーズをトッピング
量辛さ普通である。
この店に通うようになってからしばらく経つが
いつも決まってこの注文をしている。
他にも選べるようだが
この店に来る理由がこの注文をするためだから
他を試すこともないというのが本音である。
そんなわけであの「新しい試み」も
試す機会は無さそうである。
店主には少し申し訳なく思う。
カレーが運ばれてきた。
私は皿の左端にソース
右端に福神漬け
真ん中にとび辛スパイス
それぞれ盛り付けることにしている。
このお決まりの所作をこなすうちに
いつも私は任務が始まるような気持ちになる。
そして心の中でこう呟くのである。
いざ尋常に
8本目
始め
まるで忍のようだ。
もしかしたら
私の祖先は
どこかの里の忍だったのかもしれない。
相変わらず美味い。
そしてどこか懐かしさを感じる。
あの日あの時
少年だった私が
初めて食べたあの日の味わいが
身体の中に溶けていく。
何度でも幸せを味わっていく。
たまらない贅沢である。
そんなことを考えながら
黙々と食事を終えた私は
これまたいつもと同じ所作で締め括るのである。
はう
勝負あり
仏像を彷彿とさせるこの印も
どこか忍のようであると
今更にして思った。
やはり私の祖先は
どこかの里の忍だったのだろう。
帰り道
風は凪ぎ
実に穏やかである。
やはり
ココイチチキンカツチーズ
なのでした。
どこかから
そう聞こえるような
そんな気がした冬の昼下がりであった。
〜完〜